日本の家庭や職場に設けられる神棚には、榊(さかき)を供えることが習わしとされています。榊は神道における神聖な常緑樹であり、神前に供えることで清浄さと生命力を象徴します。しかし、近年では「榊を毎回新しく準備するのは大変」「水替えが面倒」「枯れてしまうと見た目が悪い」といった理由から、造花を用いる人も少なくありません。では、榊は必ず本物でなければならないのでしょうか。本稿では、その是非について考えてみたいと思います。
榊の役割と意味
榊は、常緑の葉を持ち、一年を通じて緑を絶やさないことから「生命力」「清浄」「永続性」を象徴するとされます。神棚にお供えする榊は、神様をお迎えする「依代(よりしろ)」の役割を持ち、清らかな場を整えるための大切な供物の一つです。

また、榊は「境(さかい)」から名が付いたともいわれ、神の世界と人の世界を隔てる結界の意味合いを持つとされます。したがって、本物の榊を供えることには、古来からの伝統的な意義があるといえるでしょう。
本物の榊を用いる意義
1.清浄さの象徴
生きた植物は、自然そのものの力を宿しています。本物の榊を神棚に飾ることで、清浄な気配を保ち、神様に敬意を示すことができます。
2.季節を感じることができる
本物の榊は枯れることがあります。枯れることは一見「不浄」に思えるかもしれませんが、実際には「生命の循環」を意識させてくれる存在です。定期的に交換することで、日々新たな気持ちで神様に向き合うことができます。
3.伝統を守る姿勢
古くから受け継がれてきた習慣を尊重する姿勢そのものが、神様に対する敬意の表れとなります。「形を整えること」によって心を整える、という神道の思想にもつながります。
造花を用いる利便性
一方で、現代の生活においては本物の榊を毎回準備することが難しいケースも多くあります。そのようなときに造花を利用するメリットは次のように挙げられます。
1.手入れの負担が少ない
本物の榊は水を換えたり枯れたら取り替えたりと、手間がかかります。忙しい家庭やオフィスでは管理が疎かになることもありますが、造花であればその心配がありません。
2.費用がかからない
榊は地域や季節によっては入手が難しく、また長期間にわたり購入を続けると費用もかさみます。造花は一度購入すれば長期的に使用できるため経済的です。
3.環境の影響を受けにくい
夏場の暑さや冬場の乾燥で枯れてしまう心配がなく、見た目を常に保つことができます。神棚をきれいに維持したいという実用的な面で優れています。

是非をどう考えるか
では、神棚の榊は本物でなければならないのでしょうか。答えは「本物を用いるのが理想だが、造花を用いても差し支えない」といえます。
一般的には「本物が望ましい」とされますが、造花を全面的に否定しているわけではありません。大切なのは、神様を敬う「真心」であり、供え物が本物か造花かよりも「どのような気持ちでお供えするか」が重視されます。
併用という選択肢
最近では「普段は造花、月次祭や年中行事には本物を用いる」という方法をとる人も増えています。このように、日常の利便性と伝統的な意味を両立させる柔軟な考え方も現代的といえるでしょう。
気持ちを込めることが第一

造花を用いる場合でも、神棚を清掃し、感謝の言葉を忘れずに捧げることが重要です。神様は供物の形ではなく、供える人の心を受け取ってくださるとされています。
まとめ

榊は神棚に欠かせない供物であり、本物を用いることには伝統的かつ象徴的な意味があります。しかし、現代社会では本物の榊を継続的に供えることが難しい場合も少なくありません。その際に造花を用いることは決して「間違い」ではなく、むしろ神棚を清浄に保ち続けたいという心の現れでもあります。
結局のところ、重要なのは「本物か造花か」ではなく「神様を敬い感謝する心」です。本物を供えられるときは本物を、難しいときには造花を、あるいは併用するなど、それぞれの環境に応じた方法で構いません。神棚を通じて日々の生活に感謝の心を持ち続けることこそ、最も大切な信仰の姿勢といえるでしょう。